フランスではワークライフバランスという言葉がほとんど使われない。なぜなのか? 年間の有給休暇が「最低で5週間」と法律で保証されており、有休の取得日数も世界一の30日と知られるフランスでは、企業側が「従業員のワークライフバランス実現に向けて」などとわざわざ取り組みをするメリットは少ないのだろう。
世界中の国々のワークライフバランス(work-life balance)を Google トレンドで調べると、英語圏のアメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、シンガポールを中心に、インド、ドイツ、スイス、香港、マレーシア、フィリピンなど、世界中で広く使われている。そしてご存知の通り、日本では「カタカナ」で広く普及してしまった。そう、今回はそんな日本のワークライフバランスについての話。男性にも女性にも、ぜひ最後まで読んでみて欲しい。
バランスや両立という言葉に潜んでいる罪
僕も日本の企業で働いていた時、ワークライフバランスという言葉を良く耳にした。東京は世界に「過労死」という言葉を知らしめた都市だが、海外の先進事例を取り入れ、日本人にワークライフバランスをという風潮が強まったのは、2007年のことだ。そして僕が働き始めた2008年には、友人同士での会話でも普通に使っていた記憶がある。
いまや、日本でワークライフバランスという言葉を聞いて「何それ?」という人はいないと思う。ところが、一方でこの「ワークライフバランス」という言葉は、皆にありがたく崇拝されすぎている。おそらく、ここに疑問を感じている人もいて、とりわけ、向上心が高く、人生の志も大きい人、あるいは、生活重視が当たり前という人にとっても、どこか違和感のある言葉だったりする。
今回、僕が突然ワークライフバランスの話を始めた理由は、先週 Linkdin で強い影響力のある Jeff Haden という人物の記事を読み、日本における「ワークライフバランス」という言葉の使われ方に罪深さを感じたからだ。これを、ぜひ皆さんに紹介したい。
オリジナル版の記事は2015年5月11日に公開され、何とたった3週間で75万回以上も読まれている。この記事では「ビジネスで大きく成功する人の9つの兆候」が紹介されており、その内容が大きな反響を呼んでいるのだ。
ビジネスで大きく成功する人の9つの兆候とは?
以下は、元記事の要点を僕が日本語に翻訳したものだ。成功者たちのワークライフバランスに対するアプローチ(考え方の兆候)は3つ目に紹介されている。本当はすべて熟読して欲しい内容だが、ワークライフバランスの部分以外を読んでいる時間がないという方は、サッと読み流すだけでも役に立つと思う。
1. 周りの人の成功に幸せを見出だせる
成功者たちは「あなたの幸せは、周りの人の成功からもたらされると断定できますか?」という質問に対して「そりゃそうさ!」と答えるという。成功するビジネスチームとは、能力のあるメンバーが、周りのメンバーを助けるために「率先して」時間を犠牲にできるチームのこと。そして、その中心人物こそが大成功する人物である。
2. 新しい経験を得るために容赦をしない
アメリカの精神医学者ロバート・クロニンガー博士は「新奇探索傾向(Novelty Seeking)が高い場合、それはあなたを健康で幸せな状態に保つばかりか、歳を重ねるごとに個性として磨かれる。その冒険好きな気質と好奇心が『あなただけのためではないこと』へと継続的に発揮されれば、社会全体にとって価値のある創造が得られるだろう。」と言う。
クロニンガー博士によると、「成功する人は、将来の姿を想像しながら、何か新しいことに挑戦するときに生まれる衝動的アイデアを上手に制御する。」とのこと。これはまさしく、僕が知る成功者たちにも当てはまる。あなたも、内なる新奇探索傾向を受け入れることだ。そうすることにより、心身とも健康状態を保つことができ、多くの友人を持つことができ、何より、満たされた人生を送ることができるだろう。
3. ワークライフバランスではなく自分の人生を考える
ワークライフバランスの象徴である「不可思議な境界線」をキープすることは、ほぼ無理に等しい。なぜか? それは、あなたにとって「真のビジネス」=「あなたの人生」であり、あなたの生活においては、その真のビジネスである「あなたの人生」を中心に考えることが正常だからである。つまり、もともと「仕事と生活のバランスを7:3に」などと境界線を作ることはできないのだ。
驚くほど成功を収める人たちとは、このように「仕事から生活を切り離す」代わりに、家族や友人を仕事の中心に巻き込んでいく人たちだ。興味のあること、趣味や情熱、価値のあると思ったことも、日常の仕事の中に取り入れてしまうのだ。もしこれができなければ、人生の100%を楽しむことはできず、ただ働いているだけである。
4. とことん親身になって行動ができる
親身になって行動ができなければ、そこに存在するニーズ、問題点を解決することは不可能である。そして、大成功をする人たちは、このことが日常的にできている人たちだ。
5. 自分自身の信念や思想を貫いて証明する
多くの人は、周りの人は間違っているということを示すために情熱を燃やす。しかし本当に成功する人たちは、それよりも深い動機を持っている。それは、自分自身の持つ信念や思想を貫いて証明しようという、本当の情熱である。
6. 週40時間がパフォーマンスの上限ではない
週に40時間以上の労働では、作業効率が落ちるという調査結果が出ている? なるほど…成功する人たちはスマートに仕事をしている。それは事実だろう。しかし、彼らは凄く熱心に働いているのも事実である。ライバルが週に40時間しか働かないとしたなら、しめしめとガッツポーズをしているはずだ。残業時間に差がつくのは目に見えている。
7. お金を報酬ではなく責任として捉える
成功する人は、収入を自分自身の生活を潤し、贅沢をするためのものとは考えない。それはメンバーを成長させ、ビジネスを大きくするためのもの、社会へと還元するためのものだと考える。そして、最も重要なこととして、彼らはその行動をこれ見よがしに見せつけたりもしない。彼らは、そんなことをしなくても、社会はきちんと評価をするということを知っているのだ。
8. 自分が特別な存在とは考えない
成功者は、その成功の理由が「野心、継続、実行の力」であることは認めながらも、成功が実現したのは、何より熱心な指導者、優れたプロジェクトメンバーのおかげであり、さらに多くの幸運に恵まれていたということも正しく認識している。そして、非常な成功を収める人たちとは、常に謙虚であり、質問やアドバイスを積極的に尋ねて回る人たちである。特に彼らは、そういう周りのアドバイスを賞賛して表彰する。なぜなら彼らは…
9. 成功は儚くても品格と信用は永遠であると気付いている
これは最も重要なことだ。成功者たちは、顧客、仕入先、プロジェクトメンバー、すべての出会った人たちに対して敬意を表する。あなたも是非このように行動すべきであり、ここで述べたあらゆる兆候は、その結果としてついてくるだろう。
ワークライフバランス全盛期は死んだ
記事によると、成功を収める人は「ワークライフバランス」という枠組みを無視している。そもそも成功者たちは、仕事と生活を2つに切り離したりしていないというのだ。それなのに、我々はこの2つを両立させるためのバランスを必死で考えさせられていた。滑稽だ。
しかし、僕はこの新しい考え方は好きだ。仕事と生活を切り離すのではなく、仕事の中心に家族や友人を巻き込んでいき、興味のあること、趣味や情熱なども仕事の一部にしてしまうという発想である。巷にあるワークライフバランスの考え方とは、似て非なるものだ。
いや待て、これはそもそも新しい考え方なのだろうか? もう少し考えてみよう。
成功者たちは当然のように実践している
良く考えてみると、こういう成功者の例は身近にたくさんある。結婚後「ママタレント」に方向転換して成功したアイドル、家庭の便利アイテムを発明する「主婦発明家」、筋トレの成果を幅広い形でビジネス化する「なかやまきんに君」など、ライフスタイルを前提としてビジネスを選択する人たちだ。いやはや、賢い。最近では YouTuber なども良い例だ。
僕自身、フリーランスをしていると「好きなことを仕事にする」癖がついてきている。
もはやワークライフバランスという言葉はなくしてしまい、新しい概念を広めた方が良いと思うのだが、どうだろう? 個人的にはワークライフシナジー、ワークライフハーモニーという2つの言葉を思い浮かんだのだが、調べると喜ばしいことに既に使っている人がいるようだ。
参考:「19時に帰ったら、全てが変わった」小室淑恵さんに聞くワーク・ライフバランス【Woman’s Story】ハフィントンポスト日本版 - ワーク・ライフバランスというと、仕事とプライベートの時間の比率を『4:6』『7:3』などと区切るのが、一般的なイメージなのかなと思いますが、本当はワークとライフの相乗効果の関係性こそが、ワーク・ライフバランスの本質です。私たちはワーク・ライフ “シナジー” と呼んでいます。
あとがき
今回は、個人的に久しぶりに遭遇したワークライフバランスという言葉について、思いの丈を述べた。また、ビジネスで大成功する人たちの兆候から、ワークライフバランスを考えるのではなく「ワークとライフの協和をトータルで考えること」の大事さも紹介した。
僕のように海外でフリーランスワーカーをしている人間に限らず、ワークライフシナジーや、ワークライフハーモニーという考え方が受け入れられれば、企業のあり方だって大きく変わるのではないだろうか。少なくとも僕は、従来のワークライフバランスという発想からのシフトを提案したい、そう感じている。